2015/09/28

トチノキの実

朝日に銀色の髪をキラメかせながら、いたずらを仕掛けるかのように歩を忍ばせつつ、ご近所のご婦人が私にそっと近づいてきた。
そして、手のひらにのせた丸いモノを差し出しながら、「これが何の実かご存じ?」となぜかヒソヒソ声。

ゴミ出し中の私は、眠い目をしばしばさせながら「トチノキでしょう。餅の原料になるけれど、つくるのはたいそう面倒らしいですよ。」とつられて密談のような声音で返事をした。

かの栃餅の原料であることにすこぶる感心しつつ、ご婦人はニマニマしながらその日の散歩途中に拾った実を、半分の三つ、私に手渡すと帰ってゆかれた。

私もニマニマしながら、頂戴したトチノキの実を玄関の下駄箱の上にかざった。ご婦人はつい最近、半世紀を共に過ごしたご亭主に先立たれたばかりだが、身近な植物観察は復活されたご様子。


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