2015/12/23

木材害虫じゃない木材のムシ

事務所のムシをチョビチョビと整理。ぜんぜんまったく進まない。どう断捨離すべきか。

ナガヒラタムシ Tenomerga mucida (Chevrolat, 1829)が多数入った紙包みを発掘した。




ナガヒラタムシは市街地でもたまにみかけるけれど、あまり普通にいる印象はない。日中は、死骸のように動きがないけれど、夜は活発に動き回り灯火に飛来したりする。

古い木造住宅で暮らしたことがある人ならば、この黒くて平べったい虫が、網戸に静止していたり、窓枠、玄関戸、柱などにピッタリくっついているところを見たことがあるかもしれない。



実は、この虫は床下で発生することがある。
紙包みのナガヒラタムシは、大東市の住宅街の木造住宅(一戸建て)で、平成10年6月に発生したもの。


私が現場に赴いて床下に潜ってみると、脱衣場の床組材が褐色腐朽菌にやられていた。ベイツガと思われる根太には、成虫の脱出口がみつかった。根太を材割りしてみると、ナガヒラタムシの幼虫も出てきた。
床組材腐朽の原因は、浴室排水の長期間にわたる漏水だった。


家のご主人は害虫大発生かとおののいていたが、ナガヒラタムシは木材害虫といえないと説明した。問題は腐朽菌が繁殖したことであり、腐朽材から出た虫は、むしろ住んでいる人に床下漏水を教えてくれた益虫といえる、と。


私はこの虫が家屋で発生しているところを2回みたことがあるだけだが、実際にはそれほど珍しいことでもなさそう。古い家でみたことがあるって人は、床組の腐朽菌による劣化を一応心配したほうがいいかも。

ついでに、いろいろ観察してみた。

雌雄の違いで分かりやすいのは、雄の複眼が大きいことと触角が長めなこと。





















後翅を収納するときは末端をらせん状に巻いてたたむ。
チビナガヒラタムシに似ている。(始原亜目の特徴)



















前胸の拡大。よく分からないがコレ(矢印)が前胸の背側縫合線というやつなんだろうか?



さやばねの透過光観察。花柄模様にみえる点刻列。


雄の交尾器(背面)は、一見筒状のようにみえるけれど、無理にグニョと広げてみると三片状になってて、こうしてみるとチビナガヒラタムシの交尾器に似た感じもする。

2015/12/17

日本最大のクモの巣・・・・・・(だったかも)




デジカメという道具は、害虫駆除業者の情報収集手段として、まことに有り難いものではあるけれど、何人かで現場をまわっていれば、1年もするとパソコンのハードディスクの中に数万枚の写真が堆積してたりするので始末に困る。しかも、なんかツマラナイものをやたらと撮ってるし。

5年以上も前の写真なら、もう決して役に立つことはないだろうから消去してしまえばいいのだが、なかなか踏ん切りが付かないまま、外付けハードディスクに移してしまう。

どれを消そうかなどと考えつつ古い写真を眺め出すと、業務にものすごく支障が発生するので、中身を見ないようにしてエイヤとフォルダーごと移動させることが肝要だ。

でもやっぱり古い写真をチラッとみると引き込まれる。
東大阪市の某駅に近い場所で撮影したクモの共同巣。2002年11月に暗渠のなかに張られていた。


暗くてよく分からないけれど、奥の外光が差している場所まで、クモの巣が切れ目無く続いていた。


写真の明度を変えて、クモの巣が見えやすくしてみた。



たくさんのアシナガグモの一種が共同で暮らしていて、網にかかったユスリカ類を食べていた。
短辺が0.6mで長辺は65mだから約39平方メートルのクモの巣だ。
ひょっとしたら、日本一の大きさだったかもしれない。われわれがユスリカを退治してしまったせいか、2ヶ月後にいくとクモの巣は残念ながらほとんど消えてなくなっていた。

アシナガグモ類も社会性ぽい行動をしているということは興味深い。



ユスリカ防除にアシナガグモを使えるかもしれない。ユスリカ類が発生する水面に目の荒いネットで簡単に覆い、大量飼育した個体群を放てば、巨大なシート状の巣を作ってくれて、ユスリカ類の成虫分散を封じることができるのではないだろうか?



*やっぱり米国は、アシナガグモも規模が違うなあ・・・。
Tetragnatha guatemalensisの巨大な共同巣
http://bizarrecreature.blogspot.jp/2015/05/creature-223-tetragnatha-guatemalensis.html

*こういう巣はメガウェブなどというらしい。
Greene, A., J. A. Coddington, N. L. Breisch,
D. M. De Roche, and B. B. Pagac, Jr. 2010.
An immense concentration of orb-weaving
spiders with communal webbing in a man-made structural
habitat (Arachnida: Araneae: Tetragnathidae, Araneidae).
American Entomologist 56(3): 146-156.


2015/12/14

ムリに答えてみる

粉砕された小さな甲虫でも、室内種であれば種数が限られるから、名前が分かることもある。


バラバラのオオメノコギリヒラタムシを複数個体調べるハメになって困ったが、頭部が残っていたのでなんとか同定できた。
雄の交尾器も確認してみたが、文献通りの形態だった。


ちょっと思ったのだが、頭がない雌のバラバラ死骸だったら、ノコギリヒラタムシとオオメノコギリヒラタムシをどうやって区別すればいいのだろう?
知っている範囲の貯穀害虫解説系の図書の中に、そんな疑問に答えてくれそうな本は思いあたらない。
コレは報告書を書く側にとっては楽ともいえる。「種までの同定に必要な形質を確認できない死骸であった」なんて、もったいぶった表現で仕事に区切りをつけることができる。
もちろん、ムリに答えを出す必要も全くない。
そして、標本の生殖器の比較などをやり出したりして、適当に答えを出そうものなら、それは独自研究っていう面が少なからず問題になってくる。
あのWikipediaとかも、たいそう嫌っている独自研究。

でも当ブログでやっていることといったら、独自研究なのかナニ研究なのか分からないし、研究と呼べるようなものですらないような気が強くするので、ノコギリとオオメの頭部以外の区別点に変にこだわってみる。

頭がないノコギリヒラタムシとオオメノコギリヒラタムシなんて、実体顕微鏡で眺めてみるくらいだと、まるで区別が付かない。
何の世界でも恐ろしい人はいるものなので、地上最強の同定者みたいな人がいれば、肉眼でふ節末端節をみただけでも「これはオオメじゃ」なんていってのけるかもしれない。けれどフツーはムリ、心が折れるだけ。

よくよく見つめ続けて比較していると、どことなく違っているような気もしてくる。胸部や脛節のカタチとか・・・。
これにしても、自身の観察眼がとらえた確かな点なのか、勘違いにすぎないのか悩むところ。

ノコギリとオオメの腹板基方の微小な表面構造が少し違うってことに気がついた。これは分類に使えるかも知れない(以下、両種とも雌だけ観察)。

ノコギリのほうは横長だけれど、


オオメの方は等径的。


感覚毛だろうか?ニョロニョロみたいなへんなカタチの短毛にも少し差がある。
左がノコギリで、右がオオメ。


両種の雌腹端内部に納まっている半腹板のあたりを比較してみた。
雌の半腹板末端にある尾毛の比較。上側がノコギリで、下側がオオメ。
ノコギリのほうがオオメより間延びした感じにみえるけれど、複数個体みていると区別がアヤシクなってくる。


ノコギリの雌には貯精嚢があるのだろうかと思って探してみたが、なんかぐるぐるしたモノがあるだけだった。これもspermathecaなんだろうか?
潰れたオオメの死骸からはキレイなカタチのものをみつけられなかったため、このあたりは比較できなかった。

ところでspermathecaをググると貯精嚢って普通にでてくるので、雄も雌も日本語だと貯精嚢か・・・なんて思っていたけど、個人的に聖典としてあがめている原色日本甲虫図鑑1巻を読み直して、雌にあるものは「受精嚢」と書くほうがよいことに気づいた。初心も初歩知識も忘れまくりである。