2015/06/22

ふともも内部の板バネ

2010年に此花区のルリキオビジョウカイモドキを当ブログで取り上げたけれど、その後の年にも捕虫器で確認されており、付近の緑地で発生していることはどうやら間違いなさそう。

発生していると考えられる緑地は、ハイネズ(ブルーパシフィック)とキンシバイなどが多く、ケヤキ、クスの若い木が少々と、遊歩道沿いにおきまりのユキヤナギというツマラナソーな人工的環境。
ハイネズとかキンシバイの低い藪のあたりがアヤシイと思うけれど、こういう植物とともにルリキオビも持ち込まれた可能性が大。では、植物はどこからもって来たのかってコトだが、それもヤブの中だ。

3日前に二色の浜海浜公園の近くで仕事があったので、30分ほど公園に寄ってみたけれど、狙いのルリキオビとかニセクビボソムシ科はまったく採集できなかった。ちょっと興味深かったのは、アナタカラダニの不明種がこの公園にも多かったことくらい。

イネ科の雑草をビーティングしていると、2mmを少し超える程度の小さな甲虫が落ちてきた。



オスの交尾器を観察して、ヨモギトビハムシと同定した。まるでテレポートでもするみたいに、瞬間的なジャンプ移動ができるムシだ。
体色が薄い種なので、後脚腿節の中にある濃色の器官が透けて見えていた。

バネ状骨片。弾力性に富み、複雑に折れ曲がった板。


これはノミハムシ亜科の成虫がジャンプするときに重要な役割をするバネ状骨片というもので、保育社の原色日本甲虫図鑑I巻の45ページに解説があるが、テキストで読んでも分ったような分らないような・・・。略図かなにかの解説が欲しいところ。
脚を折りたたんでいるときはバネ状骨片がたわんでエネルギーを蓄えているらしい。ストッパーになっている小さな三角状板を動かすと、バネ状骨片の形状がピョンと元に戻り、その力が脛節に伝わって跳ねるってコトみたい。
オスは後ろばねが退化しているけれど、こんなに跳ねるのなら飛べなくてもよさそう。

バネ状骨片は、カルカッタ大学のサマレンドラ・マウリクが見つけたのでMaulik器官と呼ばれることもある。最初に見つけた人は、外骨格の昆虫に内骨格がある?みたいにスゴク驚いたと思う。ホントにインド人もビックリだったのだろう。

このバネ状骨片はノミハムシ亜科だけではなく、跳ねる能力がある甲虫には広くみられ、系統関係を考える材料にされたりしている。アシナガトビハムシ属 Longitarsus は、バネ状骨片がもっとも複雑な形状の一群と思う。

ヨモギトビハムシの腿節は透明度が高いので、生きた状態でバネ状骨片の動きが観察できそうな気もする。

2015/06/14

掃除機は清潔なもの

●家屋内の清潔さを保つうえで、電気掃除機はなくてはならないモノであり、午前中から昼頃にかけて住宅街で戸ごとにひびく金属的な吸引音が、世の平穏さを示す重要な構成要素でもあることは認めざるを得ない。
ありとあらゆるものからゴリゴリ、ワシャモシャ、ビービューとゴミを除去しているうちに、吸引ノズルはもはやプラスチック成形品などではなくなってしまい、その使用する人の重要な一器官、あるいは手の延長とまでいえる存在に昇華する。掃除機は、穢すべからざる神聖な器具なのだ。

「室内に迷い込んできたクロアリの羽アリは掃除機で吸えばいいですよ。」なんていおうものなら、たいていの主婦からは、恐ろしい顔つきで「掃除機はどうなるんですか?」聞き返される。ムシはどーなるのかという以前に、掃除機が汚染されることが問題になるという点に注意を喚起したい。
うっかりムシを吸ってしまった掃除機はどうなるかというと、それはムシによっても違いがあるが、クロゴキブリなんかだったら大抵が廃棄処分とされる。粗大ゴミ置き場に真新しい掃除機を見かけることがたまにあるが、それらは故障では無く、多分ムシ入りになってしまったが故に泣いて切られた馬謖なのだと思われる。

というようなことをお客さんにたいする注意事項として同僚達と語り合ったりした。







●ミャンマーとラオスに囲まれた某国の田園地帯から回収された光誘引式捕虫器の粘着シートには、とても興味深い虫が沢山ついていた。無数について腐っている羽アリはヒメサスライアリの一種だし、シロアリモドキの一種の有翅虫なんかも混じっている。少なくとも大阪ではみたことないのばかりだ。
変なのが出てくるたびにぎゃーぎゃーいってるので、仕事がはかどらなかった・・・認めたくはないが大損。

鱗毛に覆われたゴミムシダマシの一種 Lepidocnemeplatia sp.



宇宙から落ちてきたムシなんだと思う。たぶんFission sailかなんかの原理で飛んでたんだろう。
ちゃんとした飛べるサイズの後ろばねが畳まれてあるが、そんなもので飛んでるなんてわけがないと思う。こいつもゴミムシダマシの仲間でCossyphus sp.という意見もある。




標本にして残したいムシがいたら、粘着紙ごと切り取ってキシレンに漬けておく。
一週間ほど漬けておくと粘着剤がかなり除去できるが、ムシによってはさらに長期的に漬けておかないとダメなものもある。シロアリモドキの翅脈は意外にシンプル。



4mmほどのカッチョロええゴミムシ。Cymbionotum helferiと思う、ええ虫が混じってたら捕虫紙の虫数え費用割引とかしようかしらなんて、ついアカンことを考えてしまう。
・・・ええ虫ってなんやねん・・・。




2015/06/07

ダニの脳髄


とめどもなく現れるアナタカラダニにたいして、玄関先でしゃがみ込んでキンチョールをかける日課の方々も、6月に入ると敵軍が急速に減少するので、きっと寂しがっていることだろう。
心配しなくても、来年の5月くらいには再びやってくる。



少し前に採集したアナタカラダニを使って、体内の構造を観察してみた。印象的なのは体部前方にある大きくてダニみたいな形の組織だ。体長の4分の1くらいの大きさがある。これは脳とか神経球と呼ばれている。
黄色い点線で囲ったあたりに脳がある。


ダニとタタリ神の雑種みたいだが、脳。


脳から周囲に神経が伸びていて、それそれが口器や脚や生殖器の方に向かっている。どの線がどの足に繋がっているのかなど、ダニの専門書に解説がある。
摘出して生かしておければ、演算素子とかに使えそう。

ダニの脳が、ダニを縮小コピーしたみたいに見えることは、観察するコチラの背筋に何かへんなゾワっとする刺激を与えてくれる。気持ちが良い悪いってコトではなく、説明困難。

なにか知らない奇妙な場所があって、隔絶した峻険さのようなものを感じつつ、チョット足を差し出してはみるけれど、どこにも足がかりがない怖さみたいな・・・。
自分には脳ってもんがあるはずだから、何かを考えたりしていると思う。
でも脳が考えるってどーいう仕組みやねんと、いくら考えても分らないあの循環参照エラーみたいな感覚の方が近いかも。

アナタカラダニは、脳は、人間は、いったいぜんたい、どれもこれもどーなってるのだろう。

炎天下のコンクリート上でアナタカラダニは、なにも考えずにグルグル踊っているとしか思えないけれど、存外、大集団でなにか複雑な思索を巡らしているような気さえしてきた。

2015/05/31

ミナミホソナガカメムシ

昨日は一人で軽乗用車を駆り、和歌山市新宮市へタッチして帰ってくるという仕事があった。
往復約8時間を費やし、帰社して歯が痛くなり何故だろうと考えていたが、どうやら揺れまくる車中でずっと歯を食いしばっていたコトが原因ぽい。
高速道路代をケチって山道を通るんじゃなかった・・・。





新宮市では、業務の合間に王子ヶ浜を20分ほど散策した。
コンクリート堤防の隙間から生えたススキを叩くとカメムシがおちてきた。
細長い体長約7.5mmのうす茶色いカメムシで、普段なら絶対持ち帰ったりしないようなヤツだが、何かの縁だろうから採集してみた。

このような遠隔地を訪れたのだから、さぞ良いブログネタになる珍しい甲虫でも採集できるだろうと期待していたが、海岸ではこのカメムシ以外全く採集できないというたいしたイモぶりであった。

カメムシはミナミホソナガカメムシParomius exiguusのオスと同定した。
近縁種との区別点はホントに難しいけれど、口吻先端が中脚基節に達するという特徴に頼った。
他にも交尾器を見てみたが、中央片先端にある螺旋状の管(日本語では正式になんという部位なのか知らない)が硬化して大きいというのも特徴らしい。
螺旋状の管は、時計のゼンマイのような外観と質感で、引っ張ってもすぐに元の形状に戻る。
遺伝子は盲目の時計職人らしいけど、ほんとに時計のゼンマイを作ってやがったと思った。



矢印位置まで口吻がある。


薬品処理していないときは平たくキレイに巻いた形状。

乳酸処理で透明にするとゼンマイの形が崩れた。

どうやったらメスの体内に、こんなグルグルしたものを送り込めるのだろう。











2015/05/29

エリトラ ニューシリーズ きたる!

としふるにつれ、感動するものがドンドン少なくなる中で、とてもタマシイ的なあたりを揺さぶられる雑誌の最新刊が本日届いた。
例のオオスズメバチの廃巣にたむろうツヤムネハネカクシが、ついに新種として発表。あくれりす氏の裏山がタイプロカリティーになる種ってどんだけおんねんと、空恐ろしい気がした。六甲山系みたいに、古くから強力な採集圧に曝され続けている地で新種とは・・・。このグループは今後もぞろぞろと新種が記載されそう。

他にも、でっかいタマキノコムシとか想像できない虫が載ってて驚きあきれまくり。

台湾から記載されたカミキリモドキは、北海道のフトカミキリモドキ族不明種にそっくり。私がいかにエー加減に属をコレちゃうかアレちゃうかとのたまっていたかということを思い知らされた。ちゃんと文献読まんと、「模様同じやん。コレやん」という小学生の頃からの同定方法はたいがいにしとこうと激しく自壊(自戒)。

アナタカラダニ類 Balaustium sppを整理しようと思って、液浸標本をかきまわしていると、干物になっていたりビンごと無くなっていたりでダメダメな状態だった。
大阪市内の公園で採れる暗赤色のアナタカラダニの一種のプレパラートを見直してみた。やはり爪が細長いのでカベアナタカラダニBalaustium murorumでないことだけは確か。



口之永良部島がヒドイことになっている。
新岳の火口を覗いてから、もう何十年にもなるけれど、靴底の熱さと、硫黄のニオイ、底知れぬ地割れなどは今でも心から離れない。
山頂のすり鉢のフチでは、石下で越冬しているヒメサビキコリの一種の大集団をみつけてとても驚いたものだ。
カジュツ工場の灯火で、ダイコクコガネのメスやエゾカタビロオサムシを拾ったのも、まるで昨日のことのよう。

マメクワガタを採集して、地元の方々との宴席で披露したら、「これがツノムシ(クワガタムシの方言)?・・・ぶはははっ」と皆に笑われたものである。

火山活動が一刻も早く沈静して、島民の方々の暮らしが元に戻るよう願うばかり。

2015/05/17

クロケシタマムシ

細小を極めた体躯のムシになると、眼前にあってもムシかゴミかの判断からが困難で、採集すべきかどうか思案のしどころになる。対応策としては、吸虫管を用いたナンデモスウ法という奥義がある。

兵庫県豊岡市の国道沿いの河原から、全てムシだと信じて持ち帰った植物片の中に、クロケシタマムシが1個体混じっていた。








いかつい風貌は、火星に持ち込まれた昆虫が進化するというかの有名な昆虫学蘊蓄SFマンガをほーふつとさせる。




上の個体から外れた中脚ふ節の透過光観察。



妙に規則的にみえる円いドットがある前胸背とか、歯ブラシの先みたいなふ節などをしみじみ観察してみた。
Aphanisticus属の幼虫は潜葉虫で、イネ科やカヤツリグサ科などを好むらしく、サトウキビを加害する種もいるらしい。

後翅をみてみたら、退化的で飛べないサイズだった。枯れ草の甲虫って、なにかしら飛べない種に出会うような気がする。少し前に観察したクロオビケシマキムシなんかも、同じように飛べないサイズの後翅だった。

何かの甲虫の論文で、飛べなくなることが生存上の利点となる数理モデルの話があったような記憶があるけれど、枯れ草のかたまりとか河原の草むらみたいな不安定にみえる環境で、よくもまあ飛ばないなんて選択肢がありうるものだ。

2015/05/15

タテスジツメダニの一種

日本産土壌動物 第ニ版(2015)では、ハマベツメダニ以外にも、ツメダニ科の掲載種が増えてて新しい和名もみられた。さっそく、ウレシがって使ってみる。



タテスジツメダニの一種 Chelacheles sp. 。
大阪府下の木造家屋の畳から採集された。
ツメダニ科には、本種みたいに細長い体型の種がいくつかいて、狭い隙間に逃げ込んだエモノを「はっはっは、ドコへいこうというのかね。」などといいながら追い詰めているワルモノと推察される。

さらに細長いツメダニになると、シギ類の羽軸に入り込んで他のダニを食べていると思われる種もいる。日本から記録はないと思うものの、それがみたくてずっと探している。だけど、願いはゼンゼン叶わない。
私が南港野鳥園なんかにいるとき、干潟で戯れる愛らしいシギ類をみながら、心臓発作とかでポックリいかへんかなアイツ・・・などと考えたりすることは絶対ないけどね。


日本産土壌動物 第ニ版の増補された知見では、ムカデ綱のトコロも気になってて、やはりアカズムカデが載っていなかった。
「新日本動物図鑑<中>(1965)」に「はなはだまれである」なんて書いてあるけれど、ホンマは日本におらんのとちゃうかという気がしてきた。
それと、古くからの文献には、アオズムカデの区別点として、第20歩肢ふ節第1節のふ節棘がないことが挙げられているけれど、つい最近、右と左でふ節棘の生え方が異なる個体を拝見させていただく機会があった。
日本産土壌動物 第ニ版では、オオムカデ属のふ節棘については一言も触れていなかった。あまたの標本を見たことがある研究者からは、ふ節棘は重要な特徴とみなされていないのかも知れない。