2015/10/17

ゴミダマでツメダニ探し


貰い物のニュージーランド産ゴミムシダマシ Mimopeus opaculus でダニ探しをしてみると、ゴミコナダニの一種 Sancassania sp.(コナダニ科)が、さやばねの下にいた。ゴミコナダニはヒポプスが20個体ほどで、数個体の第三若虫もみられた。同時にケナガコナダニとかヒラタチャタテの乾燥した死骸も同数ほどみられた。

第二若虫(ヒポプス)


第二若虫の抜け殻。透過偏光で光る部分がナゾい。
ヒポプスの検索に使えそう。

第三若虫


ケナガコナダニとヒラタチャタテは、ゴミムシダマシが死亡して乾燥してから、さやばねの下に入り込んだと考えられる。

では、ゴミコナダニの一種はどうだろう。本当にゴミムシダマシが生きていた頃から付着していたのだろうか?
ゴミコナダニ属は室内塵からも時に検出されるが、すでに甲虫の体表から検出されたという論文はいくつかあり、疑う必要はまるでない。

今回のゴミムシダマシの標本は腐ったりしてないのに、ヒポプス(第二若虫)から第三若虫が脱出しかけて死亡している状態だった。運び主の体表上でヒポプスの成長が進み出すことがあるとは少し意外な気がした。
なにかがひっかかる気がするが、もう眠たいし、エルキュール・ポアロ風にいうならば、灰色の脳細胞がまったく働いていない状態なので、真相の究明なんかはどうすることもできない。
まあでも、ヘンに疑ってしまっているが、ゴミコナダニ属は、運び主の選択幅が広いそうだし、たぶん野外でもゴミムシダマシに付着しているのだろうと思う。




*さやばねニューシリーズ最新号に、セマルヒラタムシ類の絵解き検索が掲載されてて、あたかも好物のお菓子でも頂いたかのようにホクホクしてしまった。
四角紙の隅に眠っているセマルヒラタムシ類を、引っ張り出してみようと思った。

2015/10/12

ツメダニ集めと社会主義

住宅で使用されていたという繊維製品から、またもやヒトクシゲツメダニ Acaropsellina sollersがみつかった。

このツメダニには、A. docta というド近縁種がいて、検索表もあるけれど両者の区別は難しい。同所的にみられたという報告もいくつかあり、同一種と考えている研究者もいる。
今回観察した個体群は、一応ほとんどの個体が A. sollers と同定できるし、doctaぽいのもsollersと変異が連続的に思われた。
日本の室内塵でみられるツメダニ科をみているだけだと、コレクションの種数を増やすことは難しそう。

大阪やその近隣地域の室内塵からは、頑張ればツメダニ類を10数種は観察できる。野外種はその倍くらいいるはずだが、状態の良い小動物や鳥の巣は簡単に手に入らないし、コウモリのグアノなんてものにも接近する機会がないので、これといって新たな種は観察できていない。

世界のツメダニをまとめたVolgin先生は、おびただしい種類の標本を一体どうやって入手出来ていたのだろう。Volginが研究をやってた1950年頃のソビエト連邦というと、スターリンがまだ元気だった頃だろうか。
粛清が大好きなスターリンとお友達だったりして、周囲の人にプレッシャーとかかけていたのかもと邪推してしまう。

ちょっと地方の農業技官とかに連絡をとって、君んとこからはツメダニがあまり送られてこないけれど、同志スターリンは祖国の科学発展に非協力的な輩は不快と感じるだろうとかなんとかいうだけで、メッチャ標本送ってくれそう。

・・・んなわけないか。

2015/10/01

キアシマルガタゴミムシのダニ

淀川には、かなり広い砂原がある。深夜に歩くと、各種のゴミムシ類が歩き回っているのを見ることができる。草深き河川敷では、夜中というのに無灯火で徘徊している不審者がかなりおられるが、なかでも昆虫の観察者というのは一等不審な感じで、他の不審者からもおおいに不審がられるキングオブ不審者といえよう。

砂地を何だかよたよた歩いているキアシマルガタゴミムシは個体数も多いし、お持ち帰りしたくない虫ランキングではかなり上位に位置している。

かなり以前に採集した淀川のキアシマルガタゴミムシのダニ類を観察してみた。
3個体調べてみたが、それぞれのさやばねの下にマヨイダニ科が1個体ずつ、ヒナダニ科が数個体ずつみられた。


マヨイダニ科はツエモチダニの一種 Antennoseius sp. で、この属からはゴミムシ類に便乗する種が世界中で記録されている。




これまで古い昆虫標本から取り出したダニ類に、カビが生えていないことが不思議でしょうがなかったが、ツエモチダニには、クラドスポリウムに似たカビがしっかり繁茂していた。第1脚先端の長毛は本属の特徴の一つだが、長毛に混じってカビが不思議なカタチの毛のふりをしていた。

*注:日本ダニ類図鑑(1980)のカワラモンツエモチダニAntennoseius imbricatus は観察したことがないが、図版を見ると第I脚ふ節にツメを欠き、ツメがあるべきところには先太りのくの字に折れた毛のようなものが描かれている。
淀川のツエモチダニの一種は、図鑑の種と激似だがツメを有する。写真の個体はツメ(前ふ節)があったが、それが外れて節窩からカビが伸びている状態と判断した。

ツメが傷んでいない個体の写真。
便乗するツエモチダニは、第1脚にツメを備える種が多いらしい。








ヒナダニ科は同じゴミムシから取り出しているのに、まったくカビが生えていなかった。
死んでもナゾのカビ止めが効いているのかもしれない。

ゴミムシ類ではいろいろな形態のヒナダニ類がみられるが、
ちゃんと名前が付いている種が多いので、
真面目に調べたら本種も同定できるかも知れない。

胴感毛はシラミダニ科と同じような形状なのに、例の複屈折が見られない。

第1脚のツメと特定の毛の複屈折が目立つ。




2015/09/28

トチノキの実

朝日に銀色の髪をキラメかせながら、いたずらを仕掛けるかのように歩を忍ばせつつ、ご近所のご婦人が私にそっと近づいてきた。
そして、手のひらにのせた丸いモノを差し出しながら、「これが何の実かご存じ?」となぜかヒソヒソ声。

ゴミ出し中の私は、眠い目をしばしばさせながら「トチノキでしょう。餅の原料になるけれど、つくるのはたいそう面倒らしいですよ。」とつられて密談のような声音で返事をした。

かの栃餅の原料であることにすこぶる感心しつつ、ご婦人はニマニマしながらその日の散歩途中に拾った実を、半分の三つ、私に手渡すと帰ってゆかれた。

私もニマニマしながら、頂戴したトチノキの実を玄関の下駄箱の上にかざった。ご婦人はつい最近、半世紀を共に過ごしたご亭主に先立たれたばかりだが、身近な植物観察は復活されたご様子。


2015/09/23

クロツヤムシの奇妙な同居人

クロツヤムシ科は熱帯を中心にはびこって朽ち木を食う虫で、およそヒトの世と縁は無く、クロくてツヤがあるムシだ。だいたいがダニったかりな連中だが、キタナくはない。

日本にも一種だけ、有名なツノクロツヤムシ Cylindrocaulus patalis がいて、四国や九州の一部のブナのある山地だけでひっそりと暮らしている。
熱帯系の昆虫というのなら、沖縄あたりにも生息していそうなものだが、なぜかみつかっていない。
そこは中生代あたりからのカラミがある説明困難で地理的な事情がナニして、現在の分布が生物地理的にアレなことになっていると思われる。





クロツヤムシ科に寄生、あるいは便乗しているダニ類については、多くのダニ学者により詳しく調べられていて、独特な多様性があることが知られている。

徳島県でツノクロツヤムシを採集したことがあったので、古い標本から同居しているダニ類を取り出して観察してみた。
トゲダニ亜目が数個体と、ヒゲダニの一種のヒポプスが1個体みつかったが、やはりツメダニはみつからない。

トゲダニ亜目は、ミヤタケクロツヤムシダニ Acaridryas miyatakei (クロツヤムシダニ科 Diarthrophalliae )だった。
日本でクロツヤムシダニ科 Diarthrophalliae は、この1種が知られているだけだが、世界からは約22属70種も報告されている。

矢印位置に奇妙なラボウルベニア目が付着していた。
スパイダーマンの敵キャラが使う触手みたい。


以前、この菌類を各種とりまぜて示してある細密な図版を見たとき、そんなバカなカタチの菌なんてあるわけがなく、マックス・エルンストかレオ・レオー二の落書きでしょと本気で思っていた。



ヒゲダニの一種は顎体部がムーミンの吻みたいでScolianoetusぽいけれど、このあたりはどの属もよく似てるし、標準的な種ですらちゃんと見たことがないのでなんともいえない。

2015/09/15

クロツヤムシのダニ

60個体くらいにはなるだろうか。
昨年からやってる甲虫のツメダニ探しにつかった標本数は。

みじんほどの手がかりもつかめず、甲虫のさやばね下空間の探索はかなりイヤになりつつある。

みんながいらないセロファン包みシリーズの最後として、台湾のクロツヤムシ Ceracupes sp. を調べてみたが、これもダメ。
小型でも勇壮な外観。なぜに人気が薄いのか 



Heterocheylidaeなどという、ひどい乱視のひとが遠目にみれば、そこはかとなくツメダニに似ているといいそうなダニがみつかっただけだ。
Heterocheylus sp.


偏光で観察すると第二脚のツメが光って不思議。


先日のアフリカ系ゾウムシのコウチュウダニ類は、まったく関連資料が見つからなかったが、Heterocheylusはいくつか論文をネットでみつけることができた。
ダニとクロツヤムシには、種ごとに特異的な関係があるので、系統や進化、昆虫地理学などを考える材料にされたりしている。

論文のなかの研究者が調べたクロツヤムシの個体数を知って腰を抜かした。

7000個体!




参考文献
Schuster. R. O. and M. M. J. Lsyoipierre. 1970. The mite family Heterocheylidae
TRAGARDH. Occasional Papers, California Academy of Sciences 85:1-42. 

2015/09/13

ダニの動く城

セロファン包みのアフリカ甲虫で、ツメダニ探しの続き。

今度のヤツはどことなくオオゾウムシみたいな雰囲気で、ジンバブエで採れたもの。
このあたりのゾウムシの分類は、近年見直す研究が増えているそうだが、たくさんの細かい相違に目をつぶりさえすれば、個人的にはオオゾウムシでも全然かまわないと思う。

さて、さやばねの下の隙間をほじってみると、やはり、マラウィのアンキロサウルス似ゾウムシに付着してたのと同じような前ふ節のコウチュウダニぽいのがいた。
ただしコチラは背板が厚くて細かな紋理があるので、どうみても別種。
こいつらが、アフリカのダニ学者たちからなんて呼ばれているのか知らないが、異質な感じのダニ類だ。
アフリカとなるとさすがにヘンなのがいる。

体部後端の毛は矢印位置あたりまでくねくねと伸びている。

ツメはやっぱり十字型。

10個体ほどいたが、この種も雌しかいなかった。まさか単性生殖?  よくみたら雄。
(10個体の中で、形よく足を広げているこの写真の個体だけが♂だった・・・。眠たかったんか?)



ホストのゾウムシのさやばねは左右が癒着しているし、腹端の嵌合部にも短剛毛がフィルタのように密生しているので、外部からダニが簡単に入り込めそうにない。
とすると、これらのアフリカゾウムシダニが拡散するチャンスは、ホストが成虫なら交尾の時、ホストが幼虫期なら産卵から羽化にかけての期間しかないということになる。

外部から閉ざされたまま移動する城の中で、ダニたちはどんな暮らしをしているのだろう。