2015/09/10

またもやハズレ

セロファン包みの外国産昆虫標本を、少々持っていることを思い出した。どう始末すればいいのかわからないような、地味で小汚いコガネムシとかゴミムシダマシ、ゾウムシなどなど。
普通にいるらしいけれど分類が困難で、しかも触角とか脚とかが破損しているという、誰も欲しがらない要素満載の素敵な虫たちだ。
虫コレクターたちがお互いに押し付け合い、流れ流れて私のところにたどり着いた感じ。

まことに申し訳ないと思いつつも、寄る辺なき標本たちを一部解体させていただき、ツメダニがくっついていないかと調べてみた。
土くれではなくゾウムシ。マラウィ産とラベルされている。
膨大な種を擁するBrachycerusという属らしい。



よくよくみるとアンキロサウルスみたいで格好良い。
矢印位置の白い点は、さやばねの内部空間にいるダニ。


残念なことに、まったく分らないコウチュウダニらしきものが出てきただけだった。ミズコナダニみたいな脚だが、前ふ節にちゃんとした尖ったカギヅメがなく、ヘンテコリンな形の小さい爪間体があるだけ。属なんてサッパリ分らない。大抵のコウチュウダニは爪間体が発達しているのに、こんな脚でちゃんとホストにくっついていられるのだろうか。
それともホストのさやばねの下は密閉性が高いので転げ落ちたりしないので、安心して脚をいい加減な構造にしているのかもしれない。

一応、捨てるのも忍びないので、これも勉強の一つと思って簡易プレパラートにした。

コウチュウダニの顔をしていない。
でも胴背の毛の配列からは他にやりようがない。


スゴく短足だし、卵胎生

十字型の爪間体・・・なんじゃこりゃ。


ツメダニもでてきてほしい。
あきらめずに、ムリムリ時間をつくって、さらに他の虫もみてみよう。


2015/09/07

星のあかり

ダニを偏光フィルターを通してみることの面白さは、アクチノピリンを含む毛だけにとどまらない。
通常光での観察では分らなかった顎体部などの構造について、様々な示唆がえられたりすることもある。
体内の消化管内容物で、強い複屈折がみられる種もいる。
脚などの外骨格でも複屈折が多少はみられるので、偏光フィルターをうまく使うとコントラストがしっかりした標本写真を作成できる。




京都の古い米穀店室内で採集されたニクダニ科のCtenoglyphus plumiger (Koch, 1836)。
こんなふうに撮影すると、宇宙から来襲してくる怪獣のようだ。


2015/09/06

ぴりん?

偏光(透過光)で観察すると、毛に複屈折がみられるかどうかということで、ダニ目(ダニ亜綱)は2群に分けられている。
複屈折の有無が分類の鍵になっている動物群なんて、他にも何かいるのだろうか?
一部の金属光沢を有する甲虫は、反射光が円偏光でどうのこうのという話はあるけれど、透過偏光でないとわからん分類的区別点なんて聞いたことがない。そういえばセンチュウでも、複屈折をみたことがあるような気がするが、記憶が定かでない。

ダニの毛の複屈折がみられる物質は、アクチノピリンactinopilin (あるいはアクチノキチンactinochitin)というタンパク質らしい。
ピリンなんて風邪に良く効きそうな名前だが、感冒薬のほうはpyrinだ。
アクチノピリンって、どういう機能をもったタンパク質なんだろう。

同定しようとしているシラミダニの仲間(たぶんPyemotes tritici)を偏光でみてみた。丸い胴感毛やツメが複屈折で光ってみえてキレイ。こういうのをみてると、やっぱりダニは昆虫と遠い存在なんだとしみじみ思う。


2015/09/05

何かが壁をやってくる


カビを食べる虫って、カビなら何でも食べられるってわけでもないし、環境が少し変わると姿を消す。
そのくせ、彼方や此方の目立たぬところで、したたかに暮らしているので、結局のところ虫嫌いの人には難敵だ。
カビ情報をドコで入手しているのか知らないが、食材の粉が舞い、良い感じの汚部屋になると必ずカシヒメチャタテが姿を現す。

2015/08/31

オオクロナガオサムシのコウチュウダニ

大阪のオサムシにはコウチュウダニ Canestriniidae(コナダニ団 Astigmata)が全然見つからんと思っていたら、オオクロナガオサムシには結構付着していることに気がついた。
つや消しで地味めなオサムシは採集しないという偏向した姿勢が、コウチュウダニを観察する機会を減じていただけみたい。

淀川左岸(樟葉)のオオクロナガオサムシにはCanestrinia sp. が見られたけれど、日本産野生生物目録 無脊椎動物編1(1993)ではCanestriniaというとマイマイカブリナカセの属名だ。

Canestrinia sp. 雌



オオクロナガオサムシにいるマイマイカブリナカセ・・・、もーいったい何の話をしているんだか。

2015/08/30

みつもん

虫退治で訪問した客先の駐車場で、剪定後の小枝が小山のように積まれているのを見つけた。
アベリア、ユキヤナギなどが多いようだった。すっかり枯れた葉の下にファイルケース(半透明な硬い板状の製品)をさしこんで、小枝を叩いてみると1個体だけ小さい甲虫が落ちてきた。

(神戸市北区で採集)

ミツモンセマルヒラタムシの仲間 Psammoecus  だった。あとで実体顕微鏡で観察して、自信満々にミツモンセマルヒラタムシP.  trimaculatus と同定した。もう20個体くらいバラバラにして標本にしてるから、同定なんか簡単やね、なんて思っていた。
交尾器を取り出したら側片と中央片がバラけてしまったが、側片の形が変だ。


(雄交尾器の一部)

瓜二つの別種が三重県とかにもいるって、たしか文献に書いてあった。
文献を探しだして、交尾器の絵と標本写真を見比べてみた。
どうやら trimaculatus ではなく、ハチジョウミツモンセマルヒラタムシ P. labyrinthicus というファンタジーな種小名が付された種のほうだと思う。

生まれつき容姿に恵まれない人が寂しく暮らしていたラビリントスという建造物の話は、美女をたぶらかして魔法アイテムをゲットした勇者により侵入されてしまい、蛮虐のかぎりをつくされるという嘆かわしいオチで終わっている。なにか微妙な教訓を含んでいるような気もする神話だ。
ラビリントスの語源は「斧」を意味する言葉らしいのだけれど、交尾器の側片はなんだか斧みたいにみえなくもない。

近畿地方にはミツモン、ニセミツモン、ハチジョウミツモンの3種がいるわけだが、いったい何匹くらい調べたら肉眼で確実に区別できるようになれるだろう。これからは、採集できた枯れ葉のカビなんかにも少しは注意したい。

2015/08/29

虫採りロード

国道脇に、きちんと整備された無料休憩所があるのはホントにありがたい。
食事したり、仮眠したり、清掃されているトイレを使用させて頂いたりと、仕事で長距離移動する労働者には貴重な安息の場所だ。
しかも、除草作業で生じた枯草積みを、敷地のハズレの目立たないところに少しだけ残しておいてくれるとは!
豊岡市には、私の行動をみてて情けをかけてくれる道路清掃作業者でもいるのかと思うくらいだ。

採集させていただきますとも、枯れ草の微小甲虫とかダニとか。
普通種とはいえ、菌食性の甲虫はサッと増えてサッと消えるようなことが多いので、いつでもどこでも採集できるとは限らない。

マルガタキスイ Curelius japonicus は、学名からは日本限定分布ぽい雰囲気がただようが、欧州諸国や北米まで侵入種として勢力を拡大している種。日本に分布していることさえ、元々いたのかどうかアヤシイもんである。
欧州在来の同属種は稀少らしいが、そいつらが仕返しに日本までやってきたとしても、私は文句をいうつもりはない。
写真がいい加減でも、最近はなんも思わんようになってきた。

マルガタキスイ雄の交尾器