2015/03/15

タカラダニこもごも

市街地でのアナタカラダニ属Balaustium を別にしても、野外を歩き回ればタカラダニ類 (Erythraeidae) の成虫と結構出会うことができる。
タカラダニは種数も多く研究途上の分類群なので、以前はまったく手に負えない存在だったけれど、日本産土壌動物(1999)のおかげで、成虫でも属あたりまでなら見当がつくようになってきた。

分布や生態などの情報のほうは、あいも変わらず少ない状況が続いている。
昆虫なら全国各地の最新情報を集める手段もあるが、野外のダニとなると皆目見当さえ付かない。
もしも「月刊だに」なんて雑誌があって、「特集!クモタカラダニ」とか、「大阪府初記録の○○タカラダニを採集」なんて記事でも読めたならば、どんなに喜ばしいことだろう。



Acleris氏から、ゴミツケタカラダニの一種Caeculisoma sp.の成虫を頂いた。神戸市で、今年1月に採集した腐葉土で見つけたとのこと。性別不明だがおそらく雌で、体長約2.0mm。



タカラダニ科のコブタカラダニ亜科Callidosomatinaeに含まれるダニで、タカラダニらしからぬ薄汚れた黄褐色をしている。
触肢は小さく直線状で、爪が目立たず、先端節が強く下向きになっていないこと、脚の脛節にあるコブなどがゴミツケタカラダニ属の特徴とされている。

コブタカラダニ属Callidosomaも、脚の脛節にコブがあるけれど、触肢が大きくダッコちゃんの腕のように下方に強く曲がっている点などが違う。



目の下側の後部感覚域が鼻みたいで顔のよう。ウチの近所にこんな感じのワンコがいる。


第4脚脛節の一対のコブ







刺されることは無いだろうけど、コイツが本気出したら痛そう。



日本ダニ類図鑑(1980)のコブタカラダニ Caeculisoma infernaleと外観はそっくりだが、近縁種との区別点がわからない。このダニの和名は、コブタカラダニ属Callidosomaとかぶっていて戸惑う。
驚くべきことに、C.  infernaleのタイプ標本写真はネットで閲覧可能で、体長約1.2mmとかなり小型、胴長と第I脚の長さの比や、胴背後縁の毛の長さなどで、神戸市産ゴミツケタカラダニと違いがみられた。

タイプ標本→ http://www.biologie.uni-ulm.de/cgi-bin/query_all/details.pl?id=98210&stufe=7&typ=ZOO#herb96895


ACARORUM CATALOGUS  I (2008)では、世界のタカラダニ科の学名や分布などがまとめられているが、Caeculisomaについては日本の記録が載っていない。
それどころか、日本語サイトでは頻出するBalaustium murorumでさえ分布に日本が含まれていない。
このカタログは、日本産野生生物目録(1993)で漏れているような種までカバーしているので悩むところ。そういえば、日本のmurorumについては、Makol(2010)もなぜか触れていなかった。


Makol, J. 2010: A redescription of Balaustium murorum (Hermann, 1804) (Acari: Prostigmata: Erythraeidae) with notes on related taxa. Annales zoologici, 60(3): 439-454.


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