2015/11/08

KCN

録画していたテレビドラマ「トミーとタペンス」を、今日やっと観ることができた。時代の雰囲気みたいなものが、すごく重厚に伝わってくる感じの作品。
原作のアガサ・クリスティーの小説を読んだのは、遠い昔のことだ。こんな話やったかいのー、なんか違うような・・・などと思いながらも、細かいことは気にせず手に汗握りながら観た。

アガサ作品のいくつかについて記憶をたどってみるうちに、些細なことが気になってきた。20世紀初頭のロンドンの物語には、定番毒薬である青酸カリが、かなり身近な存在としてしばしば現れる。そんなモノを普段の生活で、いったい何に使っていたのかというと、意外なことに殺虫目的だったりする。
「そして誰もいなくなった」などでも、庭のハチ退治用によく使われているみたいな表現があったように思う。
いったい青酸カリなんてもんを、どんな風にムシ退治で使っていたのだろう?

Archive.orgとかBiodiversity Heritage Libraryを利用させていただいて、1900~1930年頃の害虫駆除関係の文献を調べてみると、たくさんの本や論文が出てくる。
特にトコジラミに対しては、他の方法はないだろうというくらいに、よく研究されて使用されていたようだ。

鍵穴からヒモを操って青酸カリの紙包みを酸液につけるとか。
推理小説かいな!
こんなメンドイこと絶対に当時の人だってやってなくて、
現場ではもっと大雑把な方法でやっていたに違いない。
Herrick, G. W. 1914. insects injurious to the household and annoying to man. The Macmillan Co., N. Y., 470 pp. 


建物内に液化青酸ガスを送り込んでいる害虫駆除作業者。
闇の組織からこられた人殺し中な方にしか見えない。
Back, E. A., and Cotton, R. T. 1932. Hydrocyanic acid gas as fumigant for destroying household insects. U. S. Dept. Agri. Farmers' Bull. 1670, 20 pp.

青酸カリの扱いが難しすぎるので、簡単で割と安全なタイプの青酸系殺虫剤もドイツで開発されたけれど、結局はホロコーストなんかに使用された。
第二次世界大戦後には本格的に普及したDDTにより、トコジラミ駆除で害虫駆除業者が命がけの仕事をしなくてもよくなった。

現在の平和な日本では、害虫駆除業界広しといえども、青酸カリでの殺虫なんてさすがにどこもやってないだろう。一部のガ類研究者が毒ビンで使っているくらいしか思いつかない。

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