2016/06/19

ツシマヒラタクワガタにいたクワガタナカセの一種

前回の記事を自分で読み返してみた。

・・・眠くなった。

生態が独特すぎて、共感をもって接しにくいような生き物は、愛でるのが難しい。

コウチュウダニを擬人化して児童文学に仕立てたら、この変な生き物への関心を世間から集めることができるかもしれない。

宿主Aの中胸背板基部にいる母を訪ねて、宿主Bの第4腹板にいる幼虫が旅をするという話はどうだろう?無限に続く暗黒のサブエリトラル・スペース(はねの下)の旅。ひたすら強力でダークな敵とか・・・。・・・・ものすごく眠くなってきた。

リンゼイの『アルクトゥールスへの旅』を劣化させたような奇書になるだけな気もしてきた。


●対馬の比田勝で採集したツシマヒラタクワガタ Serrognathus platymelus castanicolor ♂ の標本から、コウチュウダニを取り出した。大あごの基部に10個体ほどが付着していた。


クワガタナカセの一種 Haitlingeria longilobata と同定した。




H. longilobata♂ 後胴部後端が二股になって突出して、
先端に魚のヒレみたいな剛毛が生じていた。


何のためにこのような形態になっているのか不明。


H. longilobata ♀

H. longilobata ♀ 肛門周辺の剛毛。


H. longilobata の幼虫と考えられる個体。
第1脚の基部後方に、妙な太い毛が生えている。
新体操の棍棒みたいな外観で、幼虫だけにある。
古くから知られているようだが、用途は何なんだろう?









2016/06/17

クワガタナカセはドコに?(2)

クワガタナカセなんて、迷惑千万な生きたゴミとしか見ていなかったが、その生物としての比類無き独特ぶりにハマりつつある。

基本的に甲虫類の成虫にしかいない。多くの種はさやばねの下に引きこもる生活をする。一部の種は体表で見つかり、さやばねの下にはあまりいない種もいる。雄が多型的な種がいる、、、などなど。ワケがわからないヤツラというコトだけは分かってきた。

ちょっと、コウチュウダニについて集めた関連事項を並べてみよう。

●日本のコウチュウダニは、ネットなどでざっくり調べると6種の名前が挙がってくる。
カッコ内は宿主と判断材料。

1.クワガタナカセ Coleopterophagus berlesei Kishida,1925
(ミヤマクワガタ?Lucanus sp.;日本産野生生物目録に収録。記載文献未読 。)
 *正体不明。実際にミヤマクワガタからコウチュウダニ(属不明)が得られることがあるが、本種との関係不詳。
 *コウチュウダニ科の泰斗であるHaitlinger(1990)は「私の意見では、Potosia や Cetoniaのハナムグリ類と関連付いているColeopterophagusに C. berleseiを配置できない。」とのこと。
 *Joel Hallan's Biology Catalog にある Coleopterophagus の宿主はすべてハナムグリ類で、クワガタムシ類はみあたらない。
 *日本では2000年以降に、クワガタナカセ Coleopterophagus berlesei の研究例があるみたいだが、どのような種を観察していたのか不明瞭。
 *コクワガタに寄生しているコウチュウダニをクワガタナカセ Haitlingeria longilobata(下記6参照)とする研究例がある。
 *岸田(1925)は記載が大雑把らしく、後年の分類学者から全幅の信頼を得ているというコトもなさそう。記載年を考えれば、当時東京でこんなダニを記載できるって、とんでもなく偉大と思う。
 
2.マイマイカブリナカセ Canestrinia pictura Samsinak,1971
(マイマイカブリ?;日本産野生生物目録に収録。記載文献未読 。)
 *マイマイカブリにいるコウチュウダニは、どの地域でも同じなんだろうか?ずいぶん違って見える個体群もいる。

3.カワリオサムシナカセ Photia polymorpha Samsinak,1971
(なにかのオサムシ?;日本産野生生物目録に収録。記載文献未読 )
 *オサムシの種類によっては割と普通に見つかるが、どれくらいの種がいるのかサッパリ分からない。
 *現時点で日本産オサムシナカセ類については研究者がいない模様。
 *日本のオサムシのコウチュウダニは、さやばねの下がお気に入りのようだ。

4.和名なし Coleopterophagus belzebubi Haitlinger, 1990
(シロテンハナムグリ Protaetia orientalis;記載にJapanとある。当ブログで紹介したColeopterophagus sp.と特徴が一致する。)
 *さやばねの下にいる。普通種。

5. 和名なし Coleopterophagus rudolfi Haitlinger, 1990
(シラホシハナムグリ Protaetia brevitarsis;記載では中国だけだが、日本のシラホシハナムグリにいる個体群も特徴が一致する。)
 *さやばねの下にいる。普通種。

6.  和名なし Haitlingeria longilobata Kim , Lee et al., 2006
(ツシマヒラタクワガタ Serrognathus platymelus castanicolor; 記載では韓国だけだが、対馬産ツシマヒラタクワガタにいる個体群は特徴が一致する)
 *体表で繁殖するタイプ。野外品でさやばねの下にいる所は見たことがない。韓国の虫好きにも嫌われているらしい。オオクワ、ヒラタ、コクワに着いていて、日本の虫好きから嫌われているコウチュウダニは、この属の別種という研究があるが、形態比較についてはコメントを見つけられなかった。 
 *江原昭三編著『 ダニのはなし II 生態から防除まで』,80p (1990, 技報堂出版)に、コクワガタに付着するクワガタナカセとして本種に似た種(学名なし)が図示されていた。この章の研究、続きがメッチャ気になるんですけど。
 *日本産コクワガタに寄生するコウチュウダニをH.longilobataとして、「クワガタナカセ」の和名をあてた研究例がある。
 *対馬のコクワガタ1♂の体表から数個体得られたコウチュウダニを調べてみたら、全然別の属っぽい種だったので困惑中。ウチの標本が「試料汚染」してるだけか?、本土のほうでは宿主を変えるってことなのか?判断不能。

●古いクワガタムシ標本から、体表付着タイプのコウチュウダニは簡単に確認できるけれど、試料汚染の可能性もある。自分や友人の虫屋は、クワガタムシでぎゅうぎゅう詰めになった毒ビンをヘラヘラしながら自慢しあったりはするが、新品のサンプル瓶に採集品を個別に入れて付着生物のコンタミネーションを避けるなんてことに考えはおよばない。
さやばねの下から見つかるコウチュウダニは汚染による付着の可能性が低いけれど、標本の体表から見つかる場合は要注意と思う。
コウチュウダニを見つけたときは、甲虫の体表マップのようなものを作ると参考になりそう。
さやばねの下で見つけたのか、胸部下面なのか、大あご付け根あたりなのかということは、種によって付着する部位に好みがあるようだ。

●結論としては、岸田(1925)のクワガタナカセが、どのコウチュウダニに適用可能なのかは不明ってことになる。少なくともColeopterophagus berlesei は使わない方が無難。本当にミヤマクワガタからタイプ標本が得られているのなら、たぶん分類学者ならそれをColeopterophagusとして扱うことはなく、別の属に移すだろう。

あともうすこしだけ、クワガタのコウチュウダニは観察してみるつもり。
シラホシハナムグリ(宝塚市産)のコウチュウダニ
Coleopterophagus rudolfi ♂


2016/06/05

クワガタナカセはドコに?

ひきつづき、クワガタナカセ Coleopterophagus berlesei について考えてみる。
結局、答えは出そうにないけれど。
生き物好きのあいだであれば、クワガタナカセって和名は、ダニにしては認知度が割と高めな気もするが、不思議なくらい分類の情報がない。
少なくとも、一般的な図鑑類などで詳しい解説を見つけたことはない。

検索サイトで調べてみても、日本産クワガタナカセ類の多様性は、現在研究されつつあるらしいということが、うっすら分かる程度。

佐々編『ダニ類―その分類・生態・防除 』(1965, 東京大学出版会)をひもとけば、「日本産のコウチュウダニとしては岸田(1925)が,クワガタムシLucanus sp. についていた1 種を Coleopterophagus berlesei Kishida, 1925 クワガタナカセと名づけた.」と記されている。該当種の図はなく、Grandiella escaudataの図が転載されてるだけ。

私がヒラタクワガタから、C. berlesei と思って歯ブラシで退治していた種は、標本を作っていないので何とも分からないが、どうやらお隣韓国で設けられた新属Haitlingeriaに該当するコウチュウダニかもしれない。

しかし、C. berlesei のタイプ標本は意外なことにミヤマクワガタの1種から採集されている。
ミヤマクワガタを長く飼育したことはあるけれど、ダニが気になったことはない。
でも、コウチュウダニは多くの種がさやばねの下にいるので、外観だけでは寄生の確認が難しい。真のC. berleseiはミヤマクワガタにいるのかもしれない。

ミヤマクワガタ Lucanus maculifemoratus ♀ 2個体の古い標本を取り出して、チョットさやばねの下を見てみることにした。金剛山産のほうの♀第3背板付近から、たった1個体だけコウチュウダニが見つかった。
そいつがまたとんでもない形態だった。

ミヤマクワガタ Lucanus maculifemoratus (大阪府金剛山産)
矢印位置にコウチュウダニ不明種がみられた。




ミヤマクワガタのコウチュウダニ不明種
Canestriniidae gen. sp. ♂
第4脚のつき方も変。


異様に太く長い牙のような外観の剛毛が、背面に2対、腹面に3対あった。
脚も異様な感じで先端に太短い三角錐型の剛毛が3本もある。なんちゅうHP高そうなヤツなんだろう。


ミヤマクワガタのコウチュウダニ不明種
Canestriniidae gen. sp. ♂
背面の鉤爪状剛毛(偏光の複屈折で光っている)


腹面の鉤爪状剛毛(偏光の複屈折で光っている)
前方の一対は片側が垂直で見えにくくて
もう一方は抜けて根元の穴だけになっている。



どんなコウチュウダニも、だいたい背面がつるつるではなく、強い鱗状、モザイク状、皺状、顆粒状との模様があるが、こいつには強い横皺模様があった。

なんかもう同定とかそんな話はヤメとくって感じの種だし、探しているものが何かなんてコトも頭から吹き飛ばされてしまった。

(以上のクワガタナカセの一種は、文献から Uriophela sp. と判断。2016年7月7追記。)

2016/05/29

シロテンハナムグリのコウチュウダニ

シロテンハナムグリはカナブンなどとともに、糸で縛って飛ばしたり引きずりまわしたりすることができ、かつては学校帰りの少年たちの多くから大切な存在と考えられていたものだが、近頃はそんな生き物いじめをする子供をみかけなくなった。

神戸市産シロテンハナムグリを撮影してみた。
金属光沢をもつ甲虫の標本撮影は、光源やカメラレンズの映り込みがあったりして意外にやっかいなものだ。対象物から撮影距離を大きくとってレンズの映り込みを最小にして、なおかつ周囲の映り込みを避けるために、コピー紙で筒状のものを作り標本を囲ってみた。



撮影台(100円ショップの表面艶消し半透明樹脂箱)に三角コーン的紙筒を取り付け、筒の頂点にレンズを押し付けて望遠接写的に撮影してみた。


のっぺりとしてチョット変な写真になるけれど、手軽に撮影できるので気に入った。この筒は像環塔と名付けた。



撮影後にコウチュウダニを取り出した。


京阪神あたりで、コウチュウダニ科Canestriniidae を一番容易に観察できるのが、シロテンハナムグリ属Protaetiaだろう。
体表から見てるだけでは確認困難だが、シロテンハナムグリやシラホシハナムグリ のさやばねの下からは、Coleopterophagus という属のコウチュウダニが高確率でみつかる。

Coleopterophagus sp. ♂

Coleopterophagus sp. ♀ 直交偏光板観察+Paintshop色合い補正


クワガタナカセ C. berleseiと同属だが、違いはどうなのかはよく知らない。
シロテンとシラホシでとれるそれぞれのColeopterophagus にも、少し形態差があるように思われ、シラホシにつく種は少し厳つい感じがする。
犬が飼い主に似るように、ダニも宿主に似てくるんだろうか(゜Д゜) ?

Coleopterophagus属は、ハナムグリ類(ヴェネチアあたりのProtaetiaとかCetoniaらしき種)から得られた標本をもとに、ベルレーゼが1882年に設けた。つまり、もともとハナムグリ類で知られていたダニというわけだ。
ヨーロッパでは、ハムシやオサムシ類あたりから得られたコウチュウダニの研究が1700年代末頃から始まっていて、歴史の厚みを感じる。

で、いろいろな甲虫からコウチュウダニが記載されていることは分かったけど、クワガタ大好き派の一人として当然気になるのは、なぜ欧州ではクワガタムシに付くダニの話がでてこない?ってあたり。

Coleopterophagusといえば、日本じゃクワガタナカセって呼ばれてるんだから、コウチュウダニの種数が多い欧州では、当然クワガタムシにもクワガタナカセがいるに決まってると思っていた。ところが、驚いたことにヨーロッパのクワガタ類は別に泣いてなんかいない、いや・・・コウチュウダニがくっ付いていて困るなんて情報は見当たらないのだ。

なんてことだろう、南仏あたりでヨーロッパオオクワガタを採集した子供は、歯ブラシでこすってコウチュウダニを落とす作業をしなくてもよいってことか?!
ウチで飼ってた大阪府池田市産ヒラタ58mm♂のキョーボー君なんかは、とてもダニ落としが大変だったのに。

いやいや、そんなことはどーでもいい。第一、私がクワガタをたくさん飼ってた頃は、そもそも、ゴミコナダニ属とかツキナシダニ属などのコナダニ科ヒポプスと、コウチュウダニ科を区別できていなかったし。

ちょっと考えてみると、世界のColeopterophagus属のなかで、 クワガタナカセは、クワガタムシ科を宿主とする変わり者ってだけでなく、宿主の体下面などの体表にギッシリ付着していることがあるなんてあたりも、相当変わっていると思う。
ハナムグリ類のコウチュウダニは、みんな体表を避けてさやばねの下に引っ込んでいるのが基本のようだ。日光が苦手なだけかもしれないけど。
なにげなく、歯ブラシで退治していたクワガタナカセだが、本当は珍しい生態で世界的に貴重なすごいダニなのかも知れないって気がしてきた。

2016/05/28

まどまとい

窓を閉めているのに、ガラスの内側に小バエがたくさん飛び回っていることがある。建物のどこかに虫がわいているのかと心配する人がいるけれど、外から入ってきているだけってことも結構多い。
5~6月の今時分なら、ニセケバエの仲間が、締め切ったサッシ窓の狭い隙間を通過して部屋の中に入ってくることがある。
窓の外で集団をつくってふわふわと飛んでいるだけならいいのだが、なぜか狭いところに入ってウロウロしたがる変な虫だ。交尾のためとかってことらしいけれど、確かにペアになっているのも見かける。

ニセケバエ科はものすごく普通にみかけるのに、情報は多くない。名前を聞かれたときは、こいつは見た感じがナガサキニセケバエやね、などと適当なことを言ったりするけれど、実のところは答えに窮している。

最近、住宅などでよく見つかっている体長1.5から2.0mmくらいで、翅脈が目立たないヤツは、Swammerdamella sp. と同定している。和名は分からない。
この属は地球のたいていの国にいて、東アジアからもいくつかの種が記録されている。日本にいるのも専門家に聞けば種まで教えてもらえるかも。



腐植物を好むとされるニセケバエ科だが、Swammerdamella brevicornis は、ノミバエの蛹を食べてたって古い記録があり、ホントに天敵要素が確認されるようなら、食品工場などでの調査業務の考察で面白ネタとして使えそう。

2016/05/05

トラベリング

ここ最近、車道を横切る大きな毛虫を運転中によく見かける。どこでもかしこでもってことはないが、それでも相当数を轢き殺しているような気がする。
この毛虫はヒトリガの一種の幼虫で、茶色くてゴワゴワした長毛に覆われている。




路面を疾駆している様子は、近くで見るとかなりの迫力だ。
素早く這うとか爬行なんてことではなく、まさしく「走る」で、大型の脊椎動物かなんかのような雰囲気すら感じられる
毛虫のことを、いくつかの西洋言語では、猫とか犬とかを意味する言葉が使用されているらしいけれど、わかる気がする。

体型や足の長さからは想像できない速度が出ていると思うが、ちゃんと計った例はあるんだろうか?雰囲気的には時速2kmはでてそうな気がする。
スローモーションで撮影してじっくり解析すると楽しそう。

BBCのサイトに出てるヒトリガの一種の時速5kmって記録は信じられないが、さすがに執筆者も本気にしていない様子。

最速の毛虫の記事↓

2016/04/29

福江島産マイマイカブリのコウチュウダニ


五島列島産マイマイカブリで、甲虫に付着するタイプのダニを探してみた。
10年ほど前に知人から頂いたムシだが、 さやばねの下からは狙いの種は見つからず、コウチュウダニ不明種が少しと、多数のケナガコナダニが出てきただけだった。
もちろん、どのダニも古い死骸ばかりだが、コウチュウダニの体内に潜り込んで死んでいるケナガコナダニの幼虫がいたりして、コウチュウダニの保存状態は良くなかった。





コウチュウダニ科の属の見分け方は難解で分からないけれど、Photiaかその近縁の属と思われた。雄の肛吸盤周辺の剛毛や、雌の体型はPercanestriniellaによく似ていると思う。

ちょっと、手持ちの標本をあたっただけでも謎だらけの世界だ。卒論テーマを土壇場になってもまだ決めてなくてアセっている生物系学生さんには、コウチュウダニってのはうってつけと思う。その辺のヘッセのエーミールみたいなオサムシ屋さんの標本を借りまくって、さやばねをメキョメキョするだけで、きわめて短期間で材料は手に入りまくりだ。
「そうか、つまりきみはそんなやつなんだな。」みたいな。おすすめ。





顎体部なしの雌


ケナガコナダニに体内を食い荒らされたあとに、顎体部が脱落してしまったコウチュウダニの雌などは、体の前後が不明なUMAのようだ。

そういえば米国のダニ学の草分け的分類学者が、とあるコウチュウダニについて、顎体部と肛門側の向き、つまり前後を逆に記載してしまった古い失敗例もある。
カンブリア紀以前の化石種であれば、研究が進むと体の前後や上下が逆だと分かったなんて話もあるが、現生種でも類似の誤認があるってのはダニならではと思う。
この失敗は、後にネタにされたこともないようで、ダニ学者たちの人格に深いものを何気に感じてしまう。