クワガタナカセなんて、迷惑千万な生きたゴミとしか見ていなかったが、その生物としての比類無き独特ぶりにハマりつつある。
基本的に甲虫類の成虫にしかいない。多くの種はさやばねの下に引きこもる生活をする。一部の種は体表で見つかり、さやばねの下にはあまりいない種もいる。雄が多型的な種がいる、、、などなど。ワケがわからないヤツラというコトだけは分かってきた。
ちょっと、コウチュウダニについて集めた関連事項を並べてみよう。
●日本のコウチュウダニは、ネットなどでざっくり調べると6種の名前が挙がってくる。
カッコ内は宿主と判断材料。
1.クワガタナカセ Coleopterophagus berlesei Kishida,1925
(ミヤマクワガタ?Lucanus sp.;日本産野生生物目録に収録。記載文献未読 。)
*正体不明。実際にミヤマクワガタからコウチュウダニ(属不明)が得られることがあるが、本種との関係不詳。
*コウチュウダニ科の泰斗であるHaitlinger(1990)は「私の意見では、Potosia や Cetoniaのハナムグリ類と関連付いているColeopterophagusに C. berleseiを配置できない。」とのこと。
*Joel Hallan's Biology Catalog にある Coleopterophagus の宿主はすべてハナムグリ類で、クワガタムシ類はみあたらない。
*日本では2000年以降に、クワガタナカセ Coleopterophagus berlesei の研究例があるみたいだが、どのような種を観察していたのか不明瞭。
*コクワガタに寄生しているコウチュウダニをクワガタナカセ Haitlingeria longilobata(下記6参照)とする研究例がある。
*岸田(1925)は記載が大雑把らしく、後年の分類学者から全幅の信頼を得ているというコトもなさそう。記載年を考えれば、当時東京でこんなダニを記載できるって、とんでもなく偉大と思う。
2.マイマイカブリナカセ Canestrinia pictura Samsinak,1971
(マイマイカブリ?;日本産野生生物目録に収録。記載文献未読 。)
*マイマイカブリにいるコウチュウダニは、どの地域でも同じなんだろうか?ずいぶん違って見える個体群もいる。
3.カワリオサムシナカセ Photia polymorpha Samsinak,1971
(なにかのオサムシ?;日本産野生生物目録に収録。記載文献未読 )
*オサムシの種類によっては割と普通に見つかるが、どれくらいの種がいるのかサッパリ分からない。
*現時点で日本産オサムシナカセ類については研究者がいない模様。
*日本のオサムシのコウチュウダニは、さやばねの下がお気に入りのようだ。
4.和名なし Coleopterophagus belzebubi Haitlinger, 1990
(シロテンハナムグリ Protaetia orientalis;記載にJapanとある。当ブログで紹介したColeopterophagus sp.と特徴が一致する。)
*さやばねの下にいる。普通種。
5. 和名なし Coleopterophagus rudolfi Haitlinger, 1990
(シラホシハナムグリ Protaetia brevitarsis;記載では中国だけだが、日本のシラホシハナムグリにいる個体群も特徴が一致する。)
*さやばねの下にいる。普通種。
6. 和名なし Haitlingeria longilobata Kim , Lee et al., 2006
(ツシマヒラタクワガタ Serrognathus platymelus castanicolor; 記載では韓国だけだが、対馬産ツシマヒラタクワガタにいる個体群は特徴が一致する)
*体表で繁殖するタイプ。野外品でさやばねの下にいる所は見たことがない。韓国の虫好きにも嫌われているらしい。オオクワ、ヒラタ、コクワに着いていて、日本の虫好きから嫌われているコウチュウダニは、この属の別種という研究があるが、形態比較についてはコメントを見つけられなかった。
*江原昭三編著『 ダニのはなし II 生態から防除まで』,80p (1990, 技報堂出版)に、コクワガタに付着するクワガタナカセとして本種に似た種(学名なし)が図示されていた。この章の研究、続きがメッチャ気になるんですけど。
*日本産コクワガタに寄生するコウチュウダニをH.longilobataとして、「クワガタナカセ」の和名をあてた研究例がある。
*対馬のコクワガタ1♂の体表から数個体得られたコウチュウダニを調べてみたら、全然別の属っぽい種だったので困惑中。ウチの標本が「試料汚染」してるだけか?、本土のほうでは宿主を変えるってことなのか?判断不能。
●古いクワガタムシ標本から、体表付着タイプのコウチュウダニは簡単に確認できるけれど、試料汚染の可能性もある。自分や友人の虫屋は、クワガタムシでぎゅうぎゅう詰めになった毒ビンをヘラヘラしながら自慢しあったりはするが、新品のサンプル瓶に採集品を個別に入れて付着生物のコンタミネーションを避けるなんてことに考えはおよばない。
さやばねの下から見つかるコウチュウダニは汚染による付着の可能性が低いけれど、標本の体表から見つかる場合は要注意と思う。
コウチュウダニを見つけたときは、甲虫の体表マップのようなものを作ると参考になりそう。
さやばねの下で見つけたのか、胸部下面なのか、大あご付け根あたりなのかということは、種によって付着する部位に好みがあるようだ。
●結論としては、岸田(1925)のクワガタナカセが、どのコウチュウダニに適用可能なのかは不明ってことになる。少なくともColeopterophagus berlesei は使わない方が無難。本当にミヤマクワガタからタイプ標本が得られているのなら、たぶん分類学者ならそれをColeopterophagusとして扱うことはなく、別の属に移すだろう。
あともうすこしだけ、クワガタのコウチュウダニは観察してみるつもり。
シラホシハナムグリ(宝塚市産)のコウチュウダニ
Coleopterophagus rudolfi ♂