2016/06/26

カマフリダニ

室内塵でみられるけれど、なぜかほとんどのダニの本で紹介されることがないダニが、今月も大阪市内の食品工場で少しばかりみつかった。



カマフリダニ Aphelacarus acarinus(Berlese、1910)
(カマフリダニ科 Aphelacaridae) 

ササラダニらしからぬ柔らかさ。

黒い胴感毛



柔らかくて白色半透明でコナダニっぽいけれど、黒くて細長い胴感毛(身体の前半背面あたりにある極太の剛毛)がある原始的なササラダニ。全北区に分布して、2亜種が記録されている。日本の種が、どの亜種になるのかは分からない。

本種はゴキブリホイホイの粘着面などに、たまに付着していたり、畳を叩いて得られる粉ゴミに混じっていたりする。
個体数は少ないという印象を受けるが、小さくて目立たないがゆえに、だいぶ見逃している気もするので、市街地だったら本当はとても普通にいるダニかもしれない。

欧州では、乾燥した環境の土壌で見つかり、建物内でも見つかることが知られている。
日本では、スギ人工林での記録があるだけ。


*参考文献

藤川・藤田・青木(1993)日本産ササラダニ類目録

2016/06/25

コクワガタのクワガタナカセの一種

クワガタムシのごく一部から、コウチュウダニ類 Canestriniidae gen. spp. をほんの少し調べてみたけれど、対馬産ツシマヒラタクワガタに寄生している種以外の国内種については、文献を頼って種名までたどり着ける見込みがなさそうだった。

かつて、クワガタを飼育していたときには、クワガタナカセらしきダニをうんざりするほど見ていたはずなのだが、先日Myドイツ箱をあさり、近畿やその近隣県のヒラタやコクワを10数個体ほど調べてみると、どうしたわけかほとんど見つからなかった。
バカにしてあんまり採集していないコクワガタ Macrodorcas recta から、クワガタナカセの一種 Haitlingeria sp. ♂ 1個体みつかっただけだった。
採集したムシをあまり丁寧に掃除した記憶はないけれど、酢酸エチルで絞めたクワガタを簡単に水洗いしただけで、体表のコウチュウダニがほとんど除去されてしまうのかもしれない。

とりあえず確認できたクワガタナカセの一種 Haitlingeria sp. ♂は、三重県四日市市笹川産。やはり、宿主♂の大あご基部にみられた。

ムッチャ下手くそな標本。

胴体後端の突起はツシマヒラタにいる個体群より短い。
けれど♂の特徴というのは変異幅が大きいから、
このあたりを種の違いと考えていいのかどうか微妙。



ツシマヒラタクワガタでみられるHaitlingeria longilobata ♂と比較してみると、三重県産コクワガタでみられたHaitlingeria sp. ♂ は以下の点で違いがあった。

1.ヒトの皮膚の肌理みたいな模様が、胴背中央付近でほとんどみられない。
2.足が太く寸詰まりにみえる。
3.胴体部後端の非常に長い二本の毛は、内側の h2と外側の f2の長さの差がより大きい。

1♂観察しただけで、比較なんて口幅ったいけれど別種のようにみえる。

2016/06/19

ツシマヒラタクワガタにいたクワガタナカセの一種

前回の記事を自分で読み返してみた。

・・・眠くなった。

生態が独特すぎて、共感をもって接しにくいような生き物は、愛でるのが難しい。

コウチュウダニを擬人化して児童文学に仕立てたら、この変な生き物への関心を世間から集めることができるかもしれない。

宿主Aの中胸背板基部にいる母を訪ねて、宿主Bの第4腹板にいる幼虫が旅をするという話はどうだろう?無限に続く暗黒のサブエリトラル・スペース(はねの下)の旅。ひたすら強力でダークな敵とか・・・。・・・・ものすごく眠くなってきた。

リンゼイの『アルクトゥールスへの旅』を劣化させたような奇書になるだけな気もしてきた。


●対馬の比田勝で採集したツシマヒラタクワガタ Serrognathus platymelus castanicolor ♂ の標本から、コウチュウダニを取り出した。大あごの基部に10個体ほどが付着していた。


クワガタナカセの一種 Haitlingeria longilobata と同定した。




H. longilobata♂ 後胴部後端が二股になって突出して、
先端に魚のヒレみたいな剛毛が生じていた。


何のためにこのような形態になっているのか不明。


H. longilobata ♀

H. longilobata ♀ 肛門周辺の剛毛。


H. longilobata の幼虫と考えられる個体。
第1脚の基部後方に、妙な太い毛が生えている。
新体操の棍棒みたいな外観で、幼虫だけにある。
古くから知られているようだが、用途は何なんだろう?









2016/06/17

クワガタナカセはドコに?(2)

クワガタナカセなんて、迷惑千万な生きたゴミとしか見ていなかったが、その生物としての比類無き独特ぶりにハマりつつある。

基本的に甲虫類の成虫にしかいない。多くの種はさやばねの下に引きこもる生活をする。一部の種は体表で見つかり、さやばねの下にはあまりいない種もいる。雄が多型的な種がいる、、、などなど。ワケがわからないヤツラというコトだけは分かってきた。

ちょっと、コウチュウダニについて集めた関連事項を並べてみよう。

●日本のコウチュウダニは、ネットなどでざっくり調べると6種の名前が挙がってくる。
カッコ内は宿主と判断材料。

1.クワガタナカセ Coleopterophagus berlesei Kishida,1925
(ミヤマクワガタ?Lucanus sp.;日本産野生生物目録に収録。記載文献未読 。)
 *正体不明。実際にミヤマクワガタからコウチュウダニ(属不明)が得られることがあるが、本種との関係不詳。
 *コウチュウダニ科の泰斗であるHaitlinger(1990)は「私の意見では、Potosia や Cetoniaのハナムグリ類と関連付いているColeopterophagusに C. berleseiを配置できない。」とのこと。
 *Joel Hallan's Biology Catalog にある Coleopterophagus の宿主はすべてハナムグリ類で、クワガタムシ類はみあたらない。
 *日本では2000年以降に、クワガタナカセ Coleopterophagus berlesei の研究例があるみたいだが、どのような種を観察していたのか不明瞭。
 *コクワガタに寄生しているコウチュウダニをクワガタナカセ Haitlingeria longilobata(下記6参照)とする研究例がある。
 *岸田(1925)は記載が大雑把らしく、後年の分類学者から全幅の信頼を得ているというコトもなさそう。記載年を考えれば、当時東京でこんなダニを記載できるって、とんでもなく偉大と思う。
 
2.マイマイカブリナカセ Canestrinia pictura Samsinak,1971
(マイマイカブリ?;日本産野生生物目録に収録。記載文献未読 。)
 *マイマイカブリにいるコウチュウダニは、どの地域でも同じなんだろうか?ずいぶん違って見える個体群もいる。

3.カワリオサムシナカセ Photia polymorpha Samsinak,1971
(なにかのオサムシ?;日本産野生生物目録に収録。記載文献未読 )
 *オサムシの種類によっては割と普通に見つかるが、どれくらいの種がいるのかサッパリ分からない。
 *現時点で日本産オサムシナカセ類については研究者がいない模様。
 *日本のオサムシのコウチュウダニは、さやばねの下がお気に入りのようだ。

4.和名なし Coleopterophagus belzebubi Haitlinger, 1990
(シロテンハナムグリ Protaetia orientalis;記載にJapanとある。当ブログで紹介したColeopterophagus sp.と特徴が一致する。)
 *さやばねの下にいる。普通種。

5. 和名なし Coleopterophagus rudolfi Haitlinger, 1990
(シラホシハナムグリ Protaetia brevitarsis;記載では中国だけだが、日本のシラホシハナムグリにいる個体群も特徴が一致する。)
 *さやばねの下にいる。普通種。

6.  和名なし Haitlingeria longilobata Kim , Lee et al., 2006
(ツシマヒラタクワガタ Serrognathus platymelus castanicolor; 記載では韓国だけだが、対馬産ツシマヒラタクワガタにいる個体群は特徴が一致する)
 *体表で繁殖するタイプ。野外品でさやばねの下にいる所は見たことがない。韓国の虫好きにも嫌われているらしい。オオクワ、ヒラタ、コクワに着いていて、日本の虫好きから嫌われているコウチュウダニは、この属の別種という研究があるが、形態比較についてはコメントを見つけられなかった。 
 *江原昭三編著『 ダニのはなし II 生態から防除まで』,80p (1990, 技報堂出版)に、コクワガタに付着するクワガタナカセとして本種に似た種(学名なし)が図示されていた。この章の研究、続きがメッチャ気になるんですけど。
 *日本産コクワガタに寄生するコウチュウダニをH.longilobataとして、「クワガタナカセ」の和名をあてた研究例がある。
 *対馬のコクワガタ1♂の体表から数個体得られたコウチュウダニを調べてみたら、全然別の属っぽい種だったので困惑中。ウチの標本が「試料汚染」してるだけか?、本土のほうでは宿主を変えるってことなのか?判断不能。

●古いクワガタムシ標本から、体表付着タイプのコウチュウダニは簡単に確認できるけれど、試料汚染の可能性もある。自分や友人の虫屋は、クワガタムシでぎゅうぎゅう詰めになった毒ビンをヘラヘラしながら自慢しあったりはするが、新品のサンプル瓶に採集品を個別に入れて付着生物のコンタミネーションを避けるなんてことに考えはおよばない。
さやばねの下から見つかるコウチュウダニは汚染による付着の可能性が低いけれど、標本の体表から見つかる場合は要注意と思う。
コウチュウダニを見つけたときは、甲虫の体表マップのようなものを作ると参考になりそう。
さやばねの下で見つけたのか、胸部下面なのか、大あご付け根あたりなのかということは、種によって付着する部位に好みがあるようだ。

●結論としては、岸田(1925)のクワガタナカセが、どのコウチュウダニに適用可能なのかは不明ってことになる。少なくともColeopterophagus berlesei は使わない方が無難。本当にミヤマクワガタからタイプ標本が得られているのなら、たぶん分類学者ならそれをColeopterophagusとして扱うことはなく、別の属に移すだろう。

あともうすこしだけ、クワガタのコウチュウダニは観察してみるつもり。
シラホシハナムグリ(宝塚市産)のコウチュウダニ
Coleopterophagus rudolfi ♂


2016/06/05

クワガタナカセはドコに?

ひきつづき、クワガタナカセ Coleopterophagus berlesei について考えてみる。
結局、答えは出そうにないけれど。
生き物好きのあいだであれば、クワガタナカセって和名は、ダニにしては認知度が割と高めな気もするが、不思議なくらい分類の情報がない。
少なくとも、一般的な図鑑類などで詳しい解説を見つけたことはない。

検索サイトで調べてみても、日本産クワガタナカセ類の多様性は、現在研究されつつあるらしいということが、うっすら分かる程度。

佐々編『ダニ類―その分類・生態・防除 』(1965, 東京大学出版会)をひもとけば、「日本産のコウチュウダニとしては岸田(1925)が,クワガタムシLucanus sp. についていた1 種を Coleopterophagus berlesei Kishida, 1925 クワガタナカセと名づけた.」と記されている。該当種の図はなく、Grandiella escaudataの図が転載されてるだけ。

私がヒラタクワガタから、C. berlesei と思って歯ブラシで退治していた種は、標本を作っていないので何とも分からないが、どうやらお隣韓国で設けられた新属Haitlingeriaに該当するコウチュウダニかもしれない。

しかし、C. berlesei のタイプ標本は意外なことにミヤマクワガタの1種から採集されている。
ミヤマクワガタを長く飼育したことはあるけれど、ダニが気になったことはない。
でも、コウチュウダニは多くの種がさやばねの下にいるので、外観だけでは寄生の確認が難しい。真のC. berleseiはミヤマクワガタにいるのかもしれない。

ミヤマクワガタ Lucanus maculifemoratus ♀ 2個体の古い標本を取り出して、チョットさやばねの下を見てみることにした。金剛山産のほうの♀第3背板付近から、たった1個体だけコウチュウダニが見つかった。
そいつがまたとんでもない形態だった。

ミヤマクワガタ Lucanus maculifemoratus (大阪府金剛山産)
矢印位置にコウチュウダニ不明種がみられた。




ミヤマクワガタのコウチュウダニ不明種
Canestriniidae gen. sp. ♂
第4脚のつき方も変。


異様に太く長い牙のような外観の剛毛が、背面に2対、腹面に3対あった。
脚も異様な感じで先端に太短い三角錐型の剛毛が3本もある。なんちゅうHP高そうなヤツなんだろう。


ミヤマクワガタのコウチュウダニ不明種
Canestriniidae gen. sp. ♂
背面の鉤爪状剛毛(偏光の複屈折で光っている)


腹面の鉤爪状剛毛(偏光の複屈折で光っている)
前方の一対は片側が垂直で見えにくくて
もう一方は抜けて根元の穴だけになっている。



どんなコウチュウダニも、だいたい背面がつるつるではなく、強い鱗状、モザイク状、皺状、顆粒状との模様があるが、こいつには強い横皺模様があった。

なんかもう同定とかそんな話はヤメとくって感じの種だし、探しているものが何かなんてコトも頭から吹き飛ばされてしまった。

(以上のクワガタナカセの一種は、文献から Uriophela sp. と判断。2016年7月7追記。)