2016/05/29

シロテンハナムグリのコウチュウダニ

シロテンハナムグリはカナブンなどとともに、糸で縛って飛ばしたり引きずりまわしたりすることができ、かつては学校帰りの少年たちの多くから大切な存在と考えられていたものだが、近頃はそんな生き物いじめをする子供をみかけなくなった。

神戸市産シロテンハナムグリを撮影してみた。
金属光沢をもつ甲虫の標本撮影は、光源やカメラレンズの映り込みがあったりして意外にやっかいなものだ。対象物から撮影距離を大きくとってレンズの映り込みを最小にして、なおかつ周囲の映り込みを避けるために、コピー紙で筒状のものを作り標本を囲ってみた。



撮影台(100円ショップの表面艶消し半透明樹脂箱)に三角コーン的紙筒を取り付け、筒の頂点にレンズを押し付けて望遠接写的に撮影してみた。


のっぺりとしてチョット変な写真になるけれど、手軽に撮影できるので気に入った。この筒は像環塔と名付けた。



撮影後にコウチュウダニを取り出した。


京阪神あたりで、コウチュウダニ科Canestriniidae を一番容易に観察できるのが、シロテンハナムグリ属Protaetiaだろう。
体表から見てるだけでは確認困難だが、シロテンハナムグリやシラホシハナムグリ のさやばねの下からは、Coleopterophagus という属のコウチュウダニが高確率でみつかる。

Coleopterophagus sp. ♂

Coleopterophagus sp. ♀ 直交偏光板観察+Paintshop色合い補正


クワガタナカセ C. berleseiと同属だが、違いはどうなのかはよく知らない。
シロテンとシラホシでとれるそれぞれのColeopterophagus にも、少し形態差があるように思われ、シラホシにつく種は少し厳つい感じがする。
犬が飼い主に似るように、ダニも宿主に似てくるんだろうか(゜Д゜) ?

Coleopterophagus属は、ハナムグリ類(ヴェネチアあたりのProtaetiaとかCetoniaらしき種)から得られた標本をもとに、ベルレーゼが1882年に設けた。つまり、もともとハナムグリ類で知られていたダニというわけだ。
ヨーロッパでは、ハムシやオサムシ類あたりから得られたコウチュウダニの研究が1700年代末頃から始まっていて、歴史の厚みを感じる。

で、いろいろな甲虫からコウチュウダニが記載されていることは分かったけど、クワガタ大好き派の一人として当然気になるのは、なぜ欧州ではクワガタムシに付くダニの話がでてこない?ってあたり。

Coleopterophagusといえば、日本じゃクワガタナカセって呼ばれてるんだから、コウチュウダニの種数が多い欧州では、当然クワガタムシにもクワガタナカセがいるに決まってると思っていた。ところが、驚いたことにヨーロッパのクワガタ類は別に泣いてなんかいない、いや・・・コウチュウダニがくっ付いていて困るなんて情報は見当たらないのだ。

なんてことだろう、南仏あたりでヨーロッパオオクワガタを採集した子供は、歯ブラシでこすってコウチュウダニを落とす作業をしなくてもよいってことか?!
ウチで飼ってた大阪府池田市産ヒラタ58mm♂のキョーボー君なんかは、とてもダニ落としが大変だったのに。

いやいや、そんなことはどーでもいい。第一、私がクワガタをたくさん飼ってた頃は、そもそも、ゴミコナダニ属とかツキナシダニ属などのコナダニ科ヒポプスと、コウチュウダニ科を区別できていなかったし。

ちょっと考えてみると、世界のColeopterophagus属のなかで、 クワガタナカセは、クワガタムシ科を宿主とする変わり者ってだけでなく、宿主の体下面などの体表にギッシリ付着していることがあるなんてあたりも、相当変わっていると思う。
ハナムグリ類のコウチュウダニは、みんな体表を避けてさやばねの下に引っ込んでいるのが基本のようだ。日光が苦手なだけかもしれないけど。
なにげなく、歯ブラシで退治していたクワガタナカセだが、本当は珍しい生態で世界的に貴重なすごいダニなのかも知れないって気がしてきた。

2016/05/28

まどまとい

窓を閉めているのに、ガラスの内側に小バエがたくさん飛び回っていることがある。建物のどこかに虫がわいているのかと心配する人がいるけれど、外から入ってきているだけってことも結構多い。
5~6月の今時分なら、ニセケバエの仲間が、締め切ったサッシ窓の狭い隙間を通過して部屋の中に入ってくることがある。
窓の外で集団をつくってふわふわと飛んでいるだけならいいのだが、なぜか狭いところに入ってウロウロしたがる変な虫だ。交尾のためとかってことらしいけれど、確かにペアになっているのも見かける。

ニセケバエ科はものすごく普通にみかけるのに、情報は多くない。名前を聞かれたときは、こいつは見た感じがナガサキニセケバエやね、などと適当なことを言ったりするけれど、実のところは答えに窮している。

最近、住宅などでよく見つかっている体長1.5から2.0mmくらいで、翅脈が目立たないヤツは、Swammerdamella sp. と同定している。和名は分からない。
この属は地球のたいていの国にいて、東アジアからもいくつかの種が記録されている。日本にいるのも専門家に聞けば種まで教えてもらえるかも。



腐植物を好むとされるニセケバエ科だが、Swammerdamella brevicornis は、ノミバエの蛹を食べてたって古い記録があり、ホントに天敵要素が確認されるようなら、食品工場などでの調査業務の考察で面白ネタとして使えそう。

2016/05/05

トラベリング

ここ最近、車道を横切る大きな毛虫を運転中によく見かける。どこでもかしこでもってことはないが、それでも相当数を轢き殺しているような気がする。
この毛虫はヒトリガの一種の幼虫で、茶色くてゴワゴワした長毛に覆われている。




路面を疾駆している様子は、近くで見るとかなりの迫力だ。
素早く這うとか爬行なんてことではなく、まさしく「走る」で、大型の脊椎動物かなんかのような雰囲気すら感じられる
毛虫のことを、いくつかの西洋言語では、猫とか犬とかを意味する言葉が使用されているらしいけれど、わかる気がする。

体型や足の長さからは想像できない速度が出ていると思うが、ちゃんと計った例はあるんだろうか?雰囲気的には時速2kmはでてそうな気がする。
スローモーションで撮影してじっくり解析すると楽しそう。

BBCのサイトに出てるヒトリガの一種の時速5kmって記録は信じられないが、さすがに執筆者も本気にしていない様子。

最速の毛虫の記事↓

2016/04/29

福江島産マイマイカブリのコウチュウダニ


五島列島産マイマイカブリで、甲虫に付着するタイプのダニを探してみた。
10年ほど前に知人から頂いたムシだが、 さやばねの下からは狙いの種は見つからず、コウチュウダニ不明種が少しと、多数のケナガコナダニが出てきただけだった。
もちろん、どのダニも古い死骸ばかりだが、コウチュウダニの体内に潜り込んで死んでいるケナガコナダニの幼虫がいたりして、コウチュウダニの保存状態は良くなかった。





コウチュウダニ科の属の見分け方は難解で分からないけれど、Photiaかその近縁の属と思われた。雄の肛吸盤周辺の剛毛や、雌の体型はPercanestriniellaによく似ていると思う。

ちょっと、手持ちの標本をあたっただけでも謎だらけの世界だ。卒論テーマを土壇場になってもまだ決めてなくてアセっている生物系学生さんには、コウチュウダニってのはうってつけと思う。その辺のヘッセのエーミールみたいなオサムシ屋さんの標本を借りまくって、さやばねをメキョメキョするだけで、きわめて短期間で材料は手に入りまくりだ。
「そうか、つまりきみはそんなやつなんだな。」みたいな。おすすめ。





顎体部なしの雌


ケナガコナダニに体内を食い荒らされたあとに、顎体部が脱落してしまったコウチュウダニの雌などは、体の前後が不明なUMAのようだ。

そういえば米国のダニ学の草分け的分類学者が、とあるコウチュウダニについて、顎体部と肛門側の向き、つまり前後を逆に記載してしまった古い失敗例もある。
カンブリア紀以前の化石種であれば、研究が進むと体の前後や上下が逆だと分かったなんて話もあるが、現生種でも類似の誤認があるってのはダニならではと思う。
この失敗は、後にネタにされたこともないようで、ダニ学者たちの人格に深いものを何気に感じてしまう。

2016/03/13

目からトゲ

道具が何もないときに限って、見てみたいと思っているムシと出くわすという、ほんとによくあるパターンにまたしてもハマってしまった。

ここ数年、泉南市のりんくうタウンに買い物に行くと、海を見てくるとかいいながら家族と離れ、人混みを抜け出して、いつもすぐ近くの海岸を1時間ほどさまようのを慣行にしている。
最初のうちは、海浜性の甲虫やカメムシを採集する意欲にみちていて、デジカメや吸虫管やフィルムケースを携えていたものだが、これといった種に出会うこともなく、近頃は道具を持つのもメンドくさくなって、全くの手ぶら状態でお散歩するだけだった。

今回も、お茶の500ccペットボトルだけを携えて、いつものように海藻だの流木だの石ころだのをひっくり返して、ハマダンゴムシやらアリ類などが蝟集するさまを引き気味に眺めていた。

すると、石の下に例の小さなカメムシをみつけた。外来種といわれていて、目にトゲが生えているヤツ。

この地で10数年ほど前に記録されたのを知って以来、ずっと一度は見てみたいと狙っていた。


翅が羽化不全ぽくみえる個体だが、半分ほど飲んだお茶の中に入れて、お持ち帰りさせていただいた。帰り道、興奮のあまり何度かそのお茶をウッカリ飲みそうになった。

トゲアラメカメムシ Patapius spinosus は、超広域にいるくせに食性などはよくわかってなくて、実験室的にはチャタテムシを食べたとか、地中海地域では少し内陸側の常緑樹林帯の川辺などでピットホールトラップ(イカ入り)で捕まるらしいので、死肉喰いか?とかって報文がでている。
日本では海岸のムシってイメージがあるけれど、アメリカとかでも、やっぱり川のほとりの木立で採れたりしてて、なんか結局よくわからん。

2016/02/16

ヒメケダニの一種の幼虫


金剛山の山頂付近を、9月頃の夜に歩けばドウキョウオサムシに出会える。その頃は新成虫が多いので、つまみ上げると体がまだ少し柔らかい。
そんなオサムシの体表にたくさん着いているタカラダニっぽいやつを以前観察したとき、よくみると変すぎる形態で同定できなかったことがあった。
野外のダニを同定できないことは普通なので放置していたが、ダニ学マニュアル第3版をみていると似たようなのを見つけたので、観察しなおすことにした。

これが膨らむと、いつも見みかけるようなタカラダニ幼虫みたいになる。

たぶんダニにも、自分の脚がどうなってしまったのか分かってないんだと思う。



馬蹄型の口とか、第3脚の末端節がややこしい事になっていたり、後方の胴背板が複数あったりというあたりから、ヒメケダニの一種 Hexathrombium sp. の幼虫と同定した。
この属の幼虫は、オサムシ類、アリガタハネカクシ類、オオキノコ類に外部寄生することが知られていて、中国、北米、チリ、アフリカなどで6種ほど記録があり、日本産は研究中の模様。
Hexathrombiumが含まれる科についてもいろんな考え方があるらしくて、ナミケダニ科Trombidiidaeの亜科とか、バッタケダニ科Eutrombidiidaeとしてあつかわれていたりしていたが、最新の研究ではヒメケダニ科Microtrombidiidaeに統合されている。

ダニは多節の胴体を持つ種から進化して1節の胴体になったらしいけれど、このダニの背板はいくつかの節に分かれているように見えて、先祖の名残みたいな雰囲気を感じる。
ダニの胴体の進化については、「ダニ分類の聖務日課 Bréviaire de taxonomie des acariens」という厳かなタイトル?のダニ学の心得書(PDF)に解説がある。
著者は、きっと大聖堂みたいなところにいて法衣をまとっているに違いない。

2016/01/11

ノミバエの乗手

捕虫器の粘着紙を調べていた同僚が、捕殺されたノミバエの周囲に散らばったダニをみつけた。捕虫器は、海辺の食品工場に設置してあった。
胴体後半が細い変な中気門類だけど、ブログネタにどう?と差し出されて、受け取って観察してみると確かに奇妙な体型だった。




触肢


胸板










昆虫に寄生している状態の中気門類(トゲダニ類)は、よく見かける種は、楕円形とか円形に近い体型をしている。腐葉土から見つかる成虫のトゲダニ類なども、ちゃんと観察したことは少ないけれど、後方が細くなる種ってのは見覚えがない。

ノミバエ類に便乗しているなら、室内塵からみつかることもありそうだ。どこかの文献の図で、似たようなカタチのダニをみたことがあるような気もするので調べておいて損はないだろう。

あれこれとダニ本を調べた挙げ句、ノミバエに便乗していたらしいダニは、イトダニ団の一種の第二若虫と判断した。Uroseiusという属で、成虫は体表に複雑なデコボコ構造があったり、胴体がやや細長いなどの特徴がある。

このダニの仲間はどんなのがいるだろうと思って、日本産ダニ図鑑(1980)を調べてみたら、イトダニ科としてヒルシュマンナガイトダニ Uroseius hirschmanni の成虫の図が載っていた。

いくつかの文献から、Uroseius第二若虫はノミバエ科やミギワバエで見つかり、TrachytidaeとかPolyaspididaeに含まれる種として記録されていることを知った。
a manual of Acarology(2009)では、Dithinozerconidaeという科に含めてあった。
なんにしても、こんな若虫の属を決定した研究者がいるってことに驚く。


第二若虫の1個体を潰してしまったら、体内から線虫らしきものがたくさんでてきた。


ノミバエ類についてたいしたことは知らないし、その便乗ダニについてもよく分からず、ましてや線虫なんてのも理解できない生物だ。
でも線虫にも、昆虫やダニと、ややこしい関係がありそうで面白そう。