シロテンハナムグリはカナブンなどとともに、糸で縛って飛ばしたり引きずりまわしたりすることができ、かつては学校帰りの少年たちの多くから大切な存在と考えられていたものだが、近頃はそんな生き物いじめをする子供をみかけなくなった。
神戸市産シロテンハナムグリを撮影してみた。
金属光沢をもつ甲虫の標本撮影は、光源やカメラレンズの映り込みがあったりして意外にやっかいなものだ。対象物から撮影距離を大きくとってレンズの映り込みを最小にして、なおかつ周囲の映り込みを避けるために、コピー紙で筒状のものを作り標本を囲ってみた。
撮影台(100円ショップの表面艶消し半透明樹脂箱)に三角コーン的紙筒を取り付け、筒の頂点にレンズを押し付けて望遠接写的に撮影してみた。
のっぺりとしてチョット変な写真になるけれど、手軽に撮影できるので気に入った。この筒は像環塔と名付けた。
撮影後にコウチュウダニを取り出した。
京阪神あたりで、コウチュウダニ科Canestriniidae を一番容易に観察できるのが、シロテンハナムグリ属Protaetiaだろう。
体表から見てるだけでは確認困難だが、シロテンハナムグリやシラホシハナムグリ のさやばねの下からは、Coleopterophagus という属のコウチュウダニが高確率でみつかる。
Coleopterophagus sp. ♂
Coleopterophagus sp. ♀ 直交偏光板観察+Paintshop色合い補正
クワガタナカセ C. berleseiと同属だが、違いはどうなのかはよく知らない。
シロテンとシラホシでとれるそれぞれのColeopterophagus にも、少し形態差があるように思われ、シラホシにつく種は少し厳つい感じがする。
犬が飼い主に似るように、ダニも宿主に似てくるんだろうか(゜Д゜) ?
Coleopterophagus属は、ハナムグリ類(ヴェネチアあたりのProtaetiaとかCetoniaらしき種)から得られた標本をもとに、ベルレーゼが1882年に設けた。つまり、もともとハナムグリ類で知られていたダニというわけだ。
ヨーロッパでは、ハムシやオサムシ類あたりから得られたコウチュウダニの研究が1700年代末頃から始まっていて、歴史の厚みを感じる。
で、いろいろな甲虫からコウチュウダニが記載されていることは分かったけど、クワガタ大好き派の一人として当然気になるのは、なぜ欧州ではクワガタムシに付くダニの話がでてこない?ってあたり。
Coleopterophagusといえば、日本じゃクワガタナカセって呼ばれてるんだから、コウチュウダニの種数が多い欧州では、当然クワガタムシにもクワガタナカセがいるに決まってると思っていた。ところが、驚いたことにヨーロッパのクワガタ類は別に泣いてなんかいない、いや・・・コウチュウダニがくっ付いていて困るなんて情報は見当たらないのだ。
なんてことだろう、南仏あたりでヨーロッパオオクワガタを採集した子供は、歯ブラシでこすってコウチュウダニを落とす作業をしなくてもよいってことか?!
ウチで飼ってた大阪府池田市産ヒラタ58mm♂のキョーボー君なんかは、とてもダニ落としが大変だったのに。
いやいや、そんなことはどーでもいい。第一、私がクワガタをたくさん飼ってた頃は、そもそも、ゴミコナダニ属とかツキナシダニ属などのコナダニ科ヒポプスと、コウチュウダニ科を区別できていなかったし。
ちょっと考えてみると、世界のColeopterophagus属のなかで、 クワガタナカセは、クワガタムシ科を宿主とする変わり者ってだけでなく、宿主の体下面などの体表にギッシリ付着していることがあるなんてあたりも、相当変わっていると思う。
ハナムグリ類のコウチュウダニは、みんな体表を避けてさやばねの下に引っ込んでいるのが基本のようだ。日光が苦手なだけかもしれないけど。
なにげなく、歯ブラシで退治していたクワガタナカセだが、本当は珍しい生態で世界的に貴重なすごいダニなのかも知れないって気がしてきた。